「B・B」劇中の謎
あんた、この謎をどう思う?
どうってことねぇか?
サンドバッグというものを叩いた経験がおありだろうか。
俺は昔空手をやってたことがあって、一時期、拳と脛の皮と肉が擦り切れてタコができるほど、サンドバッグを殴る蹴るしていたことがある。
で、やってみればわかるのだが、サンドバッグというものは想像しているよりずっと重い。
よく格闘家がパンチやキックで振り子のようにブラブラ揺らしている映像を見るが、あれはそれ相応のパワーが身についているからこそ出来る芸当であって、実際はなかなかああ上手くはいかないものだ。
とにかく一般のシロートにとっては、ああやってサンドバッグを自由自在に揺らすだけでも凄いことなんだが、ボクシングの世界においてはその「振り子」の上に「縦揺れ」なるものまで存在する。
「ふつう強打者といわれるボクサーは、そのパンチでサンドバッグをゆりかごのように
大きくゆらすことができる……だが真の強打者はそのパンチであの重いサンドバッグを
真上にぶち上げるという……」
(ACT.27「最後の欠点」より)
という次第。
これはフィクションでなくて実際にあるものらしく、あの「はじめの一歩」でも、幕之内一歩のパンチでバッグが縦に踊るという描写があった。
そして、殺人パンチャーで鳴らした我等が主人公B・B。
バッグ縦揺れなど出来て当たり前、出来ない方がおかしいというワケで。
では、その様子を刮目して見よ!
ストレートパンチ一閃
縦に吹っ飛ぶサンドバッグ
思わずB・Bを見やる一同
(以上三枚、ACT.27「最後の欠点」より)
……そりゃみんな、目を向けたくなりますよ。
水平方向に打ち出された拳が、
標的を鉛直方向にカチ上げたんですから。
あの幕之内一歩ですら、ボディブローとかアッパー系のパンチでなんとか縦揺れを達成したというのに。
アンタ、一体いつ不破流忍術の頭突きを身につけたんだ?
かなりの外傷…とくに森山仁の右拳は… しかしB・Bの首のうしろの"破片"は、まさに奇蹟としかいいようのない微妙な動きで、 それからともに多少の脳内出血はみとめられるものの、 ですから――――… ですからなぜ彼らが意識をとりもどさないのか…眠りつづけているのか…… したがって対処の方法も…いつ目覚めるのかも…… 彼らは一生このままということも――… |
これは「祭」終了後、B・Bと森山仁を診察した医者の言葉である。
このように試合後に原因不明の昏睡状態に陥っていた二人は、二年間病院のベッドの上で眠り続けていた。
そして目を覚ましたB・Bと仁が、二人して病院を密かに抜け出し、小学校から帰る途中の愛の目の前に現れたところで、物語は大団円となる。
このシーンの最大の謎。
700日以上寝たきりだった人間が、何故起きてすぐに歩ける?
医学用語で「廃用性筋萎縮」と言うらしいが、人間の肉体というものは、ある一定以上の負荷をかけて動かし続けていないと、やがて筋肉がしぼんで機能を十全に果たさなくなってしまうものなのである。
1970年代、何ヶ月もの間宇宙に滞在して地球に帰ってきた宇宙飛行士が、長く無重力状態だったせいで足腰が衰えて地球の重力に対応できず、リハビリ期間を経てようやく普通に歩けるようになったという話がある。
つまり、いくら地球の重力下にいたとはいえ、長い間眠ったままでベッドから一歩も動かなかった人間が、歩く以前に起き上がることだって出来るわけがないのだ。
死んだカミさんとスナイパー神父の霊にとり憑かれて、無理矢理体を動かされてたか?
武道館中野。
彼の愛用のサングラスには鉉がない。
別にそういうグラサンを着けていること自体はどうでもいい。
しかしだ。
それを着けたままディスコで踊るのはいかがなものか。
その上、激しく踊ってみても全然グラサンが外れないときたもんだ。
それが武道館だけならよかったんだが、そういう人間がなんと他にもいたではないか。
息子と一緒にランニングをしたり、ディスコで笑いながら踊っていた黒メガネのロクさんこと早瀬大。
孫を抱いたまま激昂して、思いっきりB・Bを怒鳴りつけてた小雪の親父さん。
不眠不休でスパーマシンを完成させ、お披露目が終わると同時にその場に倒れて爆睡してしまったサリー。どいつもこいつも平気で色々動き回っているクセに、鉉無しメガネが落ちた様子は全くない。
これはとういうことなのか?
![]() 武道館中野 |
![]() 早瀬大 |
![]() 松原さん |
![]() サリー |
しかしだ。
眼鏡をかけている人間が皆、鉉無し眼鏡を愛用しているのならよかったのだが、実はそうではない。
エッジ、プロフェッサー、ソウルマン、そしてB・B達も眼鏡やグラサンを着けることがあるが、それにはちゃんと鉉がついている。
これは一体どういうことなのか?
まさか、こいつらはみんな磁石人間で、凄腕の傭兵になると体内の磁力が弱まるとでも言うのか?ん?
ワカこと、若林浩一。
元横須賀の暴走族「道化師」のリーダーで、解散後はジャズバンド「モス・グリーン」を結成。
その後殺人未遂事件を起こし、アメリカへ密航しようとするが、途中裏切りに遭い、後ろ手に縛られて太平洋の荒海に投げ出される。
そこへ偶然、漁船を装ったフィリピンコネクションの密輸船が通りかかり、それに拾われ一命を取り留める。
フィリピンに渡ってコネクションに入ったワカは、そこでメキメキ頭角を現す。
しかし独自の麻薬ルートを潰されてしまい、コネクションから命を狙われる羽目になる。
そしてフィリピンを脱出、今度はアラブに渡って一旗あげ、裏の世界でそれなりの地位を築いた。
まだ若いのに、実に波乱万丈な生き様を送っている彼だが、よく読んでみるとおかしい点が二つある。
まず一つ目の謎。
「フィリピン漁船」に、横浜沖で出くわすというのはかなり不自然な話だ。
わざわざ横浜沖まで来るんなら、200海里水域の問題等があるため、漁船より貨物船にすべきである。
もし水域外の公海で拾ったのだとすれば、何故漁船が(密輸船も同様)太平洋のそんな所にいたのだろうか。
闇取引なら、わざわざ日本の近くまで来なくても、近場の台湾とか香港で出来るはずである。
謎は深まるばかりだ。
そしてもう一つの謎。
フィリピンを追われてアラブに逃げたワカだが、容姿はフィリピン当時と全然変わってない。
もっと言うなら、顔の傷を除けば、横須賀にいた頃とほとんど同じなのである。
イスラムでは髭のない男はゲイということになっている。
裏の世界とはいえ、戒律の厳しいイスラム地域で、髭も生やしていない日本人がここまで上り詰められるものなのだろうか?
大いなる疑問。
まさか、その体を売って資金作りを・・・?
IBF世界ジュニアライト級チャンピオン、カルロス・ドミンゴ。
フロリダの海岸にプールつきの豪邸を構える成金男だが、その金は何処から出ている?
軽中量級が人気の主体である南米ならいざ知らず、アメリカではウェルター以下の軽い階級は人気があまりなく、ファイトマネーはヘヴィ級やミドル級の足元にも及ばない。
なけなしのファイトマネーを何かに投資して財を築いたのかとも考えられるが、豪邸を作れるくらいに稼いだのなら、別に無理してリングに上がることはない。
となると考えられるのは、こういう展開。
カルロス・ドミンゴは、世界戦のファイトマネーを株か何かに投資して巨万の富を得た。
元々金儲けが目的でリングに上がっていた彼は、さっさとボクシングを引退しようと思ったが、そこへ飛びこんできた、B・Bのジュニアライト級統一の野望。
正体はわからないがとにかく羽振りのいいことで知られるB・Bのこと、上手くやればかなり儲けることができると考え、これを最後にしようと武道館中野との前哨戦のリングに上がった。
そして結果は南無阿弥陀仏。
即興で思いついたネタにしては悪くないと思うが、いかがでしょ。